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大阪地方裁判所 平成5年(行ウ)36号 判決

第一、二事件原告

田中忠恕

外二一名

第一事件原告

西村八重子

第二事件原告

池田清助

右二四名訴訟代理人弁護士

杉山彬

松尾直嗣

岩嶋修治

長岡麻寿恵

乕田喜代隆

赤津加奈美

野村克則

山西美明

第一、二事件被告

大阪府知事

山田勇

右訴訟代理人弁護士

比嘉廉丈

右訴訟復代理人弁護士

比嘉邦子

右指定代理人

北野光博

外一名

主文

一  第一、二事件原告北野利昭、同北野早智子、同成田和陽、同成田千恵子、同政田俊雄、同政田庸子、同渡辺光子の被告に対する本件訴えのうち、被告が砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条に基づき訴外太子ゴルフ観光株式会社に対してした平成五年三月二二日付大阪府指令河第九―三四号砂防指定地内行為許可処分の取消しを求める部分をいずれも却下し、被告が森林法一〇条の二に基づき訴外太子ゴルフ観光株式会社に対してした平成五年三月二二日付大阪府指令緑第六―三〇号林地開発行為許可処分、被告が宅地造成等規制法八条に基づき訴外太子ゴルフ観光株式会社に対してした平成五年三月二二日付大阪府指令開第一三―一七八号宅地造成工事許可処分及び被告が都市計画法二九条に基づき訴外太子ゴルフ観光株式会社に対してした平成五年三月二二日付大阪府指令開第二二―二七〇号開発行為許可処分の各取消しを求める部分をいずれも棄却する。

二  第二事件原告池田清助の被告に対する請求を棄却する。

三  その余の第一、二事件原告らの被告に対する本件訴えをいずれも却下する。

四  訴訟費用は、第一、二事件とも同事件原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  第一事件

1  被告が森林法一〇条の二に基づき訴外太子ゴルフ観光株式会社に対してした平成五年三月二二日付大阪府指令緑第六―三〇号林地開発行為許可処分を取り消す。

2  被告が砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条に基づき訴外太子ゴルフ観光株式会社に対してした平成五年三月二二日付大阪府指令河第九―三四号砂防指定地内行為許可処分を取り消す。

3  被告が宅地造成等規制法八条に基づき訴外太子ゴルフ観光株式会社に対してした平成五年三月二二日付大阪府指令開第一三―一七八号宅地造成工事許可処分を取り消す。

二  第二事件

被告が都市計画法二九条に基づき訴外太子ゴルフ観光株式会社に対してした平成五年三月二二日付大阪府指令開第二二―二七〇号開発行為許可処分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、被告が、大阪府南河内郡太子町及び河南町所在の山林にゴルフ場(以下、右ゴルフ場を「本件ゴルフ場」といい、右ゴルフ場建設計画予定地を「本件ゴルフ場計画地」という。)を設置しようとする訴外太子ゴルフ観光株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し、①森林法一〇条の二に基づき平成五年三月二二日付大阪府指令緑第六―三〇号林地開発行為許可処分(以下「本件林地開発行為許可処分」という。)、②砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条に基づき平成五年三月二二日付大阪府指令河第九―三四号砂防指定地内行為許可処分(以下「本件砂防指定地内行為許可処分」という。)、③宅地造成等規制法八条に基づき平成五年三月二二日付大阪府指令開第一三―一七八号宅地造成工事許可処分(以下「本件宅地造成工事許可処分」という。)、④都市計画法二九条に基づき平成五年三月二二日付大阪府指令開第二二―二七〇号開発行為許可処分(以下「本件開発行為許可処分」という。)をそれぞれしたところ、周辺に居住する第一事件原告らが、本件林地開発行為許可処分、本件砂防指定地内行為許可処分及び本件宅地造成工事許可処分は違法であるとして、被告に対してその取消しを求め(第一事件)、同じく周辺住民である第二事件原告らが本件開発行為許可処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案である(第二事件)。

一  当事者間に争いのない事実

1  第一、二事件原告らの地位

第一、二事件原告らは、いずれも大阪府南河内郡太子町及び河南町に居住している者である。

2 本件林地開発行為許可処分に至る経緯

(一)  訴外会社は、平成四年六月八日、被告に対し、森林法一〇条の二に基づき、別紙物件目録記載一の土地(以下「本件民有林」という。)におけるゴルフ場の設置を目的とする開発行為(以下「本件林地開発行為」という。)の許可申請をした(以下「本件林地開発行為許可申請」という。)。

(二)  被告は、訴外会社に対し、平成五年三月二二付で本件林地開発行為許可処分をした。

3 本件砂防指定地内行為許可処分に至る経緯

(一)  訴外会社は、平成四年七月二二日、被告に対し、砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条、九条に基づき、別紙物件目録記載二の土地(以下「本件砂防指定地」という。)におけるゴルフ場の造成行為(以下「本件砂防指定地内行為」という。)の許可申請をした(以下「本件砂防指定地内行為許可申請」という。)。

(二)  被告は、訴外会社に対し、平成五年三月二二日付で本件砂防指定地内行為許可処分をした。

4 本件宅地造成工事許可処分に至る経緯

(一)  訴外会社は、平成四年七月二二日、被告に対し、宅地造成等規制法八条に基づき、別紙物件目録記載三の土地(以下「本件宅地造成地」という。)における宅地造成工事(以下「本件宅地造成工事」という。)の許可申請をした(以下「本件宅地造成工事許可申請」という。)。

(二)  被告は、訴外会社に対し、平成五年三月二二日付で本件宅地造成工事許可処分をした。

5 本件開発行為許可処分に至る経緯

(一)  訴外会社は、平成四年七月二二日、被告に対し、都市計画法二九条、三〇条に基づき、別紙物件目録記載四の土地(以下「本件開発区域」という。)におけるゴルフ場建設を目的とする開発行為(以下「本件開発行為」という。)の許可申請をした(以下「本件開発許可申請」という。)。

(二)  被告は、訴外会社に対し、平成五年三月二二日付で本件開発許可処分をした。

6 本件開発行為許可処分に対する審査請求の前置

(一)  第二事件原告らは、平成五年五月一八日、大阪府開発審査会に対し、本件開発許可処分についての審査請求をした。

(二)  大阪府開発審査会は、平成六年三月二三日、第二事件原告池田清助の審査請求については棄却し、その余の同事件原告らの審査請求については却下する旨の裁決をした。

三 争点

1  原告らの本件各処分の取消しを求める原告適格

(一)  第一事件原告らの本件林地開発許可処分の取消しを求める原告適格

(1)  第一事件原告らの主張

① 森林法一〇条の二第二項は、地域森林計画の対象となっている民有林における開発行為の許可申請に対しては、「当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」(一号)、「当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」(一号の二)、「当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」(二号)、「当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること」(三号)のいずれにも該当しないと認めるときには、これを許可しなければならない旨定めている。このような規定の趣旨、目的、考慮されている被害の性質等に鑑みると、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可制度は、単に民有林の有する災害防止機能、水源かん養機能、環境保全機能を一般的公益として保護するにとどまらず、民有林の周辺に居住し、当該民有林における開発行為がもたらす災害等により直接的かつ重大な被害を受けることが予想される範囲の住民の生命、身体、財産の安全等を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解される。

② 第一事件原告らは、本件林地開発行為の行われる本件民有林から概ね一キロメートルの範囲内に居住しており、本件林地開発行為によって土砂災害、水害等が生じた場合には、生命、身体、財産に直接的かつ重大な被害を受けることが予想されるから、本件林地開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有する。

(2)  被告の主張

① 森林法は、「森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資すること」を目的とし(一条)、その目的達成の手段の一つとして地域森林計画を定め(五条)、森林の有する公益的機能の発揮に配慮した森林の土地の適正な利用を確保するため、地域森林計画の対象となる民有林における開発行為を行うに当たっては、知事の許可を要するものとしている(一〇条の二)。このような森林法の趣旨、目的等に照らすと、同法一〇条の二に基づく林地開発行為許可制度は、同法の目的とする森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しつつ、災害の防止、水の確保、環境の保全等、森林が現に有している公益的機能を確保することを目的とするものであって、個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものとは解されない。また、森林法一〇条の二第五項によると、「(林地開発行為許可の)条件は、森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限度のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課するものであってはならない。」旨規定されており、右規定からも、林地開発行為許可制度が公益的観点から設けられていることは明らかである。

② 最高裁昭和五二年(行ツ)第五六号同五七年九月九日第一小法廷判決・民集三六巻九号一六七九頁は、森林法二六条に基づく保安林指定解除処分に関し、同法が、保安林の指定に「直接の利害関係を有する者」は右指定を農林水産大臣に申請することができるものとし(二七条一項)、右「直接の利害関係がある者」が右指定解除に異議があるときは、意見書を提出し、公開の聴聞手続に参加することができるものとしていること(二九条、三〇条、三二条)や旧森林法(明治四〇年法律第四三号)二四条においては「直接利害ノ関係ヲ有スル者」に対して訴願及び行政訴訟の提起が認められていた沿革があることを根拠に、右解除処分により洪水緩和、渇水予防上直接の影響を被る一定範囲の地域に居住する住民に対して右解除処分の取消しを求める原告適格を肯定している。しかしながら、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可制度においては、このような個別的利益を保護するための手続保障規定も右のような沿革も存在しないのであるから、林地開発行為許可制度は、保安林指定解除制度と異なり、個々人の個別的利益を保護する趣旨を含まないと解すべきである。

③ したがって、第一事件原告らは本件林地開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有しない。

(二)  第一事件原告らの本件砂防指定地内行為許可処分の取消しを求める原告適格

(1)  第一事件原告らの主張

① 砂防法は、土砂災害や水害等の災害を防止し、国民の生命、身体、財産の安全という個々人の個別的利益の保護を目的とする法律である。

② 第一事件原告らは、本件砂防指定地内行為の行われる本件砂防指定地から概ね一キロメートルの範囲内に居住しており、本件砂防指定地内行為によって土砂災害、水害等が生じた場合には、生命、身体、財産に直接的かつ重大な被害を受けることが予想されるから、本件砂防指定地内行為許可処分の取消しを求める原告適格を有する。

(2)  被告の主張

① 砂防法は、河川の上流水源地の荒廃を防止し、土砂の崩壊流失による河床の上昇を防ぎ、洪氷の原因を除去するという治水面の観点から行われる砂防を目的とするものであって、個々人の個別的利益を保護する趣旨を含まない。

② したがって、第一事件原告らは、本件砂防指定地内行為許可処分の取消しを求める原告適格を有しない。

(三)  第一事件原告らの本件宅地造成工事許可処分の取消しを求める原告適格

(1)  第一事件原告らの主張

① 宅地造成等規制法は、「宅地造成に伴いがけくずれ又は土砂の流出を生ずるおそれが著しい市街地又は市街地となろうとする土地の区域内において、宅地造成に関する工事等について災害の防止のため必要な規制を行うことにより、国民の生命及び財産の保護を図り、もって公共の福祉に寄与すること」を目的としているのであるから(一条)、国民の生命、身体、財産の安全等を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解される。

② 第一事件原告らは、本件宅地造成工事の行われる本件宅地造成地から概ね一キロメートルの範囲内に居住しており、本件宅地造成工事によって崖崩れ、土砂の流出等の災害が生じた場合には、生命、身体、財産に直接的かつ重大な被害を受けることが予想されるから、本件宅地造成工事許可処分の取消しを求める原告適格を有する。

(2)  被告の主張

宅地造成等規制法は個々人の個別的利益を保護する趣旨を含む旨の第一事件原告らの主張については、争わない。

(四)  第二事件原告らの本件開発行為許可処分の取消しを求める原告適格

(1)  第二事件原告らの主張

① 都市計画法三三条一項は、申請に係る開発行為が同項各号所定の基準に適合しており、かつ、申請の手続が同法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならないものとし、右許可の基準として、「開発行為内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていること」(七号)、「政令で定める規模以上の開発行為にあっては、開発区域及びその周辺の地域における環境を保全するため、開発行為の目的及び第二号イからニまでに掲げる事項を勘案して、開発区域における植物の生育の確保上必要な樹木の保存、表土の保全その他の必要な措置が講ぜられるように設計が定められていること」(九号)、「政令で定める規模以上の開発行為にあっては、開発区域及びその周辺の地域における環境を保全するため、第二号イからニまでに掲げる事項を勘案して、騒音、振動等による環境の悪化の防止上必要な緑地帯その他の緩衝帯が配置されるように設計が定められていること」(一〇号)等の規定を置いている。このような規定の趣旨、目的、考慮されている被害の性質等に鑑みると、都市計画法二九条に基づく開発行為許可制度は、単に都市の健全な発展と秩序ある整備という公共の利益の実現を目的とするにとどまらず、周辺地域の環境及び周辺住民の生命、身体、財産の安全等を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解される。

② 第二事件原告らは、本件開発行為の行われる本件開発区域から概ね一キロメートルの範囲内に居住しており、本件林地開発行為によって崖崩れ、出水等の災害が生じた場合には、生命、身体、財産に直接的かつ重大な被害を受けることが予想されるから、本件開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有する。

(2)  被告の主張

① 都市計画法は、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与すること」を目的とし(一条)、「農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきこと」を基本理念として都市計画を定めるものとしている(二条)。そして、都市計画法二九条に基づく開発行為許可制度は、このような基本理念のもとに、市街化区域及び市街化調整区域において行われる開発行為を一般的に禁止し、都市の健全な発展と秩序ある整備を図る上で支障がないと認められる一定の基準を満たす場合に限って、右禁止を解除するものとしている。このような都市計画法の趣旨、目的等に照らすと、同法二九条に基づく開発行為許可制度は、同法の目的とする都市の健全な発展と秩序ある整備という公共の利益の実現のために設けられたものであって、個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものとは解されない。

② したがって、第二事件原告らは、本件開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有しない。

2 本件各処分の違法性

(一)  本件林地開発行為許可処分の違法性

(1)  第一事件原告らの主張

① 許可基準の運用細則に関する通達違反

ア 森林法一〇条の二に基づく林地開発行為の許可要件の審査については、「開発行為の許可基準の運用について」(昭和四九年一〇月三一日付林野企第八二号農林事務次官依命通達)及び「開発行為の許可基準の運用細則について」(昭和四九年一〇月三一日付四九林野治第二五二一号林野庁長官通達。以下「旧通達」ということがある。)が定められていたところ、旧通達は、平成二年六月一一日付二林野治第一八六八号林野庁長官通達によって改正された(以下「新通達」ということがある。)。

イ 被告は、新通達に従って本件林地開発行為許可申請が許可要件を満たしているか否かを審査すべきであるにもかかわらず、旧通達に従って審査し、本件林地開発行為許可処分をした。新通達によると、ゴルフ場の造成を目的とする開発行為においては、原則として周辺部に幅概ね三〇メートル以上の残置森林又は造成森林(残置森林は原則として概ね二〇メートル以上)を配置し、ホール間に幅概ね三〇メートル以上の残置森林又は造成森林(残置森林は概ね二〇メートル以上)を配置するものとされているところ、本件林地開発行為許可申請では、周辺部及びホール間における森林幅は三〇メートル以下であった。したがって、本件林地開発行為許可処分は、新通達に違反する違法な処分である。

ウ なお、被告は、「改正許可基準等の運用に当たっての留意事項について」(平成二年七月三日付二―二〇林野庁指導部治山課長発)に規定された経過措置に基づき、旧通達に従って審査した旨主張するけれども、訴外会社は、事前協議を了した後、事業計画を大幅に変更しているのであるから、改めて変更後の事業計画について事前協議をやり直さない限り、右経過措置規定を適用することはできないはずであり、右変更前の事業計画について事前協議が行われたからといって、既に事前協議が了したものとして、右経過措置を適用することは許されないというべきである。

② 大阪府土地利用等調整協議会が定めた取扱方針違反

ア 大阪府においては、「大阪府土地利用等調整協議会設置要綱」(昭和四一年一一月二九日実施)が定められており、土地利用に関する計画、事業等の調整を図ることを目的として大阪府土地利用等調整協議会を設置するものとされている。右要綱に基づいて設置された大阪府土地利用等調整協議会は、昭和六一年一二月一日、「ゴルフ場開発に関する取扱方針」を取り決めたが(以下「旧取扱方針」ということがある。)、平成二年九月一日、旧取扱方針の一部を改正した(以下「新取扱方針」ということがある。)。

イ 新取扱方針によると、敷地の周辺部及びコース間に概ね幅三〇メートル以上(内自然地二〇メートル以上)の樹林帯を確保すべきものとされているが、本件林地開発行為許可申請では、コース間に自然地は全く残されておらず、幅三〇メートル以上の樹林帯も確保されていない。また、新取扱方針によると、史跡の存する区域の開発は認めず、開発面積が二〇ヘクタール以上の場合は、敷地の六五パーセント以上の樹林地を設け、敷地の四〇パーセント以上の自然地を残すものとされているところ、本件林地開発行為許可申請においては、大阪府の史跡指定予定地を開発区域に含めた上で、右史跡指定予定地を自然地として計算しており、実際には、右基準を満たしていない。したがって、本件林地開発行為許可処分は、新取扱方針に違反する違法な処分である。

③ 大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反

大阪府環境影響評価要綱(昭和五九年二月二〇日大阪府公告第九号。但し、平成二年四月二日大阪府公告第五一号による変更後のもの。以下同じ。)によると、施行区域の面積が五〇ヘクタール以上のゴルフ場建設事業を実施しようとする者は、同要綱の定める手続に従って、環境影響評価を実施しなければならないものとされている(三条)。ところが、被告は、訴外会社が大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価を実施しなかったにもかかわらず、本件林地開発行為許可処分をした。したがって、本件林地開発行為許可処分は、大阪府環境影響評価要綱に定める環境影響評価手続に違反する違法な処分である。

(2)  被告の主張

① 許可基準の運用細則に関する通達違反について

ア 「改正許可基準等の運用に当たっての留意事項について」(平成二年七月三日二―二〇林野庁指導部治山課長発)によると、新通達施行日において、既に都道府県の要綱等に基づく事前協議等を概ね了しているもの(林務担当部局として事業計画の内容審査を了しており、残置森林等の割合、配置等について具体的に指導、調整等がなされている事案)であって、新通達施行日以降二年以内に林地開発行為許可の申請手続を行うものについては、従前の例により取り扱うものとされている。大阪府においては、「事前協議制度実施要綱」(昭和四八年一〇月一日施行)が定められ、都市計画法二九条に基づく開発行為及び宅地造成等規制法八条に基づく宅地造成工事を行おうとする者は事前協議を行うものとされているほか、「大阪府土地利用等調整協議会設置要綱」(昭和四一年一一月二九日実施)によると、大阪府土地利用等調整協議会は、面積が二〇ヘクタール以上のゴルフ場造成事業に係る調整を行うものとされている。本件ゴルフ場の造成計画については、林務担当部局たる大阪府農林水産部緑の環境整備室が平成二年三月までに残置森林等の割合、配置等について具体的な指導、調整等を行い、大阪府土地利用等調整協議会が基本立地を了承したもので、新通達施行日以降二年以内である平成四年六月八日に本件林地開発行為許可申請が行われた。

そうすると、本件林地開発行為許可申請については、右経過措置規定に基づき、旧通達に従って許可要件を審査すれば足りるところ、被告は、旧通達に従ってこれを審査し、森林法一〇条の二第二項所定の許可要件を満たしていたことから、本件林地開発行為許可処分をしたものである。したがって、本件林地開発行為許可処分は、適法である。

イ 第一事件原告らは、訴外会社は事前協議を了した後、事業計画を変更したのであるから、右経過措置規定を適用することは許されない旨主張するけれども、右変更は、事業者や事業目的等、事業計画の根幹に関わるものではなく、コースレイアウト、残置森林の割合、配置等について部分的に行われたにすぎず、事前協議の後にこの程度の変更が行われるのは、通常予測されるところであるから、右変更が行われたからといって、右経過措置規定を適用し得なくなるものとは解されない。

また、右変更前後の事業計画を比較すると、右変更によって本件民有林における土地の改変面積が約四六パーセント減少し、残置森林等の割合が約二〇パーセント増加しているほか、開発区域全体の面積が一二三万平方メートルから約一〇二万平方メートルに、コースに用いられる面積が約三〇万平方メートルから約一九万平方メートルにそれぞれ減少する一方、自然緑地の割合が約四三パーセントから49.4パーセントに、緑地全体の割合が67.2パーセントから74.7パーセントにそれぞれ増加するなど、右変更後の事業計画は、森林保全の観点からより望ましい内容となっている。被告は、このような変更後の事業計画の内容をも踏まえて、右経過措置規定を適用したものであるから、右経過措置規定に基づき、旧通達に従って許可要件の審査を行ったことは何ら違法ではない。

ウ 本件林地開発行為許可申請における周辺部及びホール間の森林幅は、概ね三〇メートル以上であり、周辺部の残置森林幅も概ね二〇メートル以上となっている。したがって、本件林地開発行為許可申請は、新通達に従って審査したとしても、概ね審査基準を満たす内容であるから、本件林地開発行為許可処分は、いずれにしても適法である。

② 大阪府土地利用等調整協議会が定めた取扱方針違反について

「ゴルフ場開発に関する取扱方針」は、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分の許可要件を定めたものではないから、右取扱方針違反を理由とする第一事件原告らの主張は、失当である。

③ 大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反について

大阪府環境影響評価要綱が、ゴルフ場建設事業を実施しようとする者に対して環境影響評価の実施を義務づけたからといって、これによって、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分の許可要件が変更されるわけではないから、大阪府環境影響評価要綱違反を理由とする第一事件原告らの主張は、失当である。

(二)  本件砂防指定地内行為許可処分の違法性

(1)  第一事件原告らの主張

① 安全性審査の懈怠による違法

砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条に基づく砂防指定地内行為許可処分をするに当たっては、申請に係る砂防指定地内行為によって周辺住民の生活環境が破壊されたり、砂防指定地の維持管理に支障を来したりすることがないかどうかを審査しなければならないにもかかわらず、被告は、本件砂防指定地内行為によって第一事件原告らの生活環境が破壊されたり、本件砂防指定地内の維持管理に支障を来したりすることがないかどうかを十分審査しないまま本件砂防指定地内行為許可処分をした。したがって、本件砂防指定内行為許可処分は、本来行われるべき安全性の審査を怠った違法な処分である。

② 大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反

被告は、訴外会社が大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価を実施しなかったにもかかわらず、本件砂防指定地内行為許可処分をした。したがって、本件砂防指定地内行為許可処分は、大阪府環境影響評価要綱に定める環境影響評価手続に違反する違法な処分である。

(2)  被告の主張

① 安全性審査の懈怠による違法について

被告は、砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条に基づく砂防指定地内行為の許可を適正に行うために砂防指定地内行為許可技術基準を定めており、本件砂防指定地内行為許可申請についても、右基準に適合するかどうかを審査し、これに適合したことから、本件砂防指定地内行為許可処分をしたものである。したがって、本件砂防指定地内行為許可処分は、適法である。

② 大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反について

大阪府環境影響評価要綱が、ゴルフ場建設事業を実施しようとする者に対して環境影響評価の実施を義務づけたからといって、これによって、砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条に基づく砂防指定地内行為許可処分の許可要件が変更されるわけではないから、大阪府環境影響評価要綱違反を理由とする第一事件原告らの主張は、失当である。

(三)  本件宅地造成工事許可処分の違法性

(1)  第一事件原告らの主張

① 安全性審査の懈怠による違法

宅地造成等規制法八条に基づく宅地造成工事許可処分をするに当たっては、申請に係る宅地造成地の地盤や地質の状況を調査、検討しなければならないにもかかわらず、被告は、本件宅地造成地の地盤や地質の状況を十分調査、検討しないまま本件宅地造成工事許可処分をした。したがって、本件宅地造成工事許可処分は、本来行われるべき安全性の審査を怠った違法な処分である。

② 大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反

被告は、訴外会社が大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価を実施しなかったにもかかわらず、本件宅地造成工事許可処分をした。したがって、本件宅地造成工事許可処分は、大阪府環境影響評価要綱に定める環境影響評価手続に違反する違法な処分である。

(2)  被告の主張

① 安全性審査の懈怠による違法について

被告は、本件宅地造成工事が宅地造成等規制法九条、同法施行令四条ないし一六条、大阪府宅地造成等規制法施行細則三条、四条で定められた技術基準に適合するかどうかを審査し、これに適合したことから、本件宅地造成工事許可処分をしたものである。本件宅地造成工事許可申請に当たっては、訴外会社から地盤調査報告書が提出されており、右地盤調査報告書には、本件宅地造成地全域についての地表地盤踏査のほか、ボーリング調査一五箇所(延長191.5メートル)、標準貫入試験一三七回、現場透水試験七箇所、スウェーデン式サウンディング試験二二箇所等の土質調査試験の結果が記載されていた。右地盤調査報告書に記載された調査内容は、前記技術基準適合性についての判断をするに十分なものであって、右調査結果は、いずれも前記技術基準を満たしていた。したがって、本件宅地造成工事許可処分は、適法である。

② 大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反について

大阪府環境影響評価要綱が、ゴルフ場建設事業を実施しようとする者に対して環境影響評価の実施を義務づけたからといって、これによって、宅地造成等規制法九条、同法施行令四条ないし一六条、大阪府宅地造成等規制細則三条、四条で定められた宅地造成工事許可処分の許可要件が変更されるわけではないから、大阪府環境影響評価要綱違反を理由とする第一事件原告らの主張は、失当である。

(四)  本件開発行為許可処分の違法性

(1)  第二事件原告らの主張

① 大阪府土地利用等調整協議会が定めた取扱方針違反

大阪府土地利用等調整協議会が取り決めた「ゴルフ場開発に関する取扱方針」は、平成二年九月一日に一部改正されたところ、改正後の新取扱方針によると、敷地の周辺部及びコース間に概ね幅三〇メートル以上(内自然地二〇メートル以上)の樹林帯を確保すべきものとされているが、本件開発行為許可申請では、コース間に自然地は全く残されておらず、幅三〇メートル以上の樹林帯も確保されていない。したがって、本件開発行為許可処分は、新取扱方針に違反する違法な処分である。

② 大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反

被告は、訴外会社が大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価を実施しなかったにもかかわらず、本件開発行為許可処分をした。したがって、本件開発行為許可処分は、大阪府環境影響評価要綱に定める環境影響評価手続に違反する違法な処分である。

(2)  被告の主張

① 大阪府土地利用等調整協議会が定めた取扱方針違反について

「ゴルフ場開発に関する取扱方針」は、都市計画法二九条に基づく開発行為許可処分の許可要件を定めたものではないから、右取扱方針違反を理由とする第二事件原告らの主張は、失当である。

③ 大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反について

大阪府環境影響評価要綱が、ゴルフ場建設事業を実施しようとする者に対して環境影響評価の実施を義務づけたからといって、これによって、都市計画法三三条で定められた開発行為許可処分の許可要件が変更されるわけではないから、大阪府環境影響評価要綱違反を理由とする第二事件原告らの主張は、失当である。

第三  争点に対する判断

一  原告らの本件各処分の取消しを求める原告適格について

1 取消訴訟における原告適格について

行政事件訴訟法九条は、取消訴訟の原告適格について規定するところ、同条にいう処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであって、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきでる。

そこで、以下においては、右のような見地に立って、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分、砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条に基づく砂防指定地内行為許可処分、宅地造成等規制法八条に基づく宅地造成工事許可処分及び都市計画法二九条に基づく開発行為許可処分につき原告適格を有する者について順次検討する。

2 森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分について

(一)(1)  森林法は、森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的として制定されたものである(一条)。そして、農林水産大臣は、林業基本法一〇条一項の基本計画及び長期の見通しに即し、かつ、保安施設の整備の状況等を勘案して、全国の森林につき全国森林計画を立て(四条)、都道府県知事は、全国森林計画に即して、森林計画区別にその森林計画区に係る民有林につき地域森林計画を立てるものとし(五条)、地域森林計画の対象となっている民有林における開発行為については、都道府県知事の許可にかからしめることとし、右許可には、森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限度のものに限り、条件を附することができるものとしている(一〇条の二)。このような森林法の目的、林地開発行為許可制度の趣旨等に照らすと、同法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分は、森林の保続培養と森林生産力の増進という公共の利益の保護を目的とするものと解される。

しかしながら、他方において、森林法一〇条の二第二項は、都道府県知事は林地開発行為許可申請が同項各号のいずれにも該当しないと認めるときはこれを許可しなければならないものとし、同項一号は、「当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」、同項一号の二は、「当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」と規定している。このように森林法一〇条の二第二項一号、一号の二が単なる一般的、抽象的な災害の防止にとどまらず、「当該森林の現に有する土地に関する災害又は水害の防止の機能」からみて、「当該森林の周辺地域又は当該森林が現に有する水害防止の機能に依存する地域」という具体的に特定された地域における災害の防止を林地開発行為の許可要件とする旨定めていることに加え、右許可要件の審査に瑕疵があった場合には土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が生じる可能性があり、一度これら災害が発生したときには、当該森林に近接する住民であればあるほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その程度はより直接的かつ重大なものとなり、とりわけ、当該森林の近くに居住する者はその生命、身体等にさえかかる直接的かつ重大な被害を受けることになるものと想定されることなどを併せ考えると、森林法一〇条の二第二項一号、一号の二は、単に公衆の生命、身体の安全等を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、当該森林の周辺に居住し、右災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。

(2)  もっとも、森林法二五条、二六条に基づく保安林指定解除処分については、同法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」はその取消しを求める原告適格を有するものと解されるところ(最高裁昭和五二年(行ツ)第五六号同五七年九月九日第一小法廷判決・民集三六巻九号一六七九頁参照)、確かに被告が指摘するとおり、保安林の指定及び解除に関しては、右指定又は解除に「直接の利害関係を有する者」は、農林水産大臣に対して森林を保安林として指定すべき旨又は保安林の指定を解除すべき旨を申請することができ(二七条一項)、農林水産大臣が保安林の指定又は解除をしようとする場合に、右「直接の利害関係を有する者」がこれに異議があるときは、意見書を提出し、公開の聴聞手続に参加することができるものとされているのに対し(二九条、三〇条、三二条)、同法一〇条の二に基づく林地開発行為許可に関しては、林地開発行為許可に直接の利害関係を有する者に対して手続関与を保障した規定は見当たらない。

しかしながら、他方、森林法二五条一項は、保安林指定解除により洪水緩和、渇水予防上直接の影響を被る一定範囲の地域に居住する住民の利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を含むというべきところ(前掲最高裁判決参照)、同法二五条一項一号、二号、三号等の規定と同法一〇条の二第二項一号、一号の二の規定を比較してみると、両者は、いずれも森林周辺の一定範囲における災害の防止を保護法益としているのであって、そうすると、後者においても、前者同様、このような災害による直接かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解するのが相当である。このことは、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可制度が制定された経緯からも裏付けられるのであって、右林地開発行為許可制度は、森林法が昭和四九年法律第三九号によって改正された際に、保安林以外の森林であっても国民生活の安定と地域社会の健全な発展に少なからぬ役割を有していることから、これらの森林において開発行為を行うに当たって右森林の役割を阻害しないように保安林制度との連けいを図りつつ、森林の土地の適正な利用を確保することを目的として定められたものであり(「森林法及び森林組合合併助成法の一部を改正する法律の施行について〔開発行為の許可制及び伐採の届出制関係〕昭和四九年一〇月三一日四九林野企第八二号各都道府県知事あて農林事務次官通達参照)、保安林制度と趣旨、目的を共通にするものと解される。

以上のような諸点に鑑みると、森林法一七条一項、二九条、三〇条、三二条が定めるような手続保障規定がないからといって、同法一〇条の二第二項一号、一号の二が個々人の個別的利益を保護する趣旨を含まないということはできない。

(3)  そうすると、許可要件適合性に関する審査に過誤があった場合に想定される土砂の流出又は崩壊、水害等の災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する住民は、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有するものというべきである。

(4) なお、第一事件原告らは、森林法一〇条の二第二項三号についても、周辺住民の個別的利益を保護する趣旨を含むものである旨主張するけれども、同号は、単に「環境を著しく悪化させるおそれがあること」と規定するにすぎず、これによって周辺住民が享受する利益は具体性に乏しいものであるといわざるを得ないし、また、同条一項、同法施行令二条の二の二によると、林地開発行為の許可は一定規模以上の開発行為について必要とされているのであって、「良好な環境」という利益の性質に鑑みると、かかる広範囲にわたる開発行為によって右利益を侵害される住民の範囲を特定、個別化することは困難であるから、同号が住民個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない。

(二) そこで、次に、右に述べたような観点から、第一事件原告らが、本件林地開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて判断する。

(1) 証拠(甲一ないし三、六ないし八、九及び一〇の各一、二、一一ないし三二、三四、八一ないし八五、検甲一ないし一二、乙一、五ないし七、乙A四、六、乙B三の一、二、五ないし七、乙C二、検乙一、二の一ないし五、証人禾本栄治、同神山善寛、同大津允、原告北野利昭本人)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

ア 本件ゴルフ場計画地は、大阪府南河内郡太子町及び河南町に位置し、その北部は太井川に、西部は「近つ飛鳥風土記の丘」と呼ばれる丘陵地帯にそれぞれ接している。本件ゴルフ場計画地は、南東部から北西部にかけて傾斜していて、標高が最も高い南端部分において標高236.5メートル、最も低い北西端部分において標高六二メートルであり、その標高差は174.5メートル、傾斜角度は三度ないし三〇度となっている。

イ 本件ゴルフ場計画地には、南東から北西に向かってほぼ平行に四本の川が流れている。このうち、本件ゴルフ場の北側に接して流れているのが太井川(地元住民は小田原川とも呼んでいる。以下同じ)であって、太井川は、本件ゴルフ場計画地の北西端に位置する菅ヶ谷橋付近において、本件ゴルフ場計画地の中央部分を流れる菅ヶ谷川と合流し、さらに菅ヶ谷橋の北西約二〇〇メートルに位置する第一仏眼寺橋付近において、本件ゴルフ場計画地の西側に接して流れる小川と合流している。また、本件ゴルフ場計画地の西側突起部分には、小川がもう一本流れていて、第一仏眼寺橋の北西約二〇〇メートル付近において太井川に合流している。太井川は、昭和五七年八月に発生した集中豪雨の際に、本件ゴルフ場計画地の北側に位置する大阪府南河内郡太子町葉室地区において氾濫し、同川の沿岸に居住する住民は全員高台に避難し、葉室地区住民らにおいて同川からの溢水やこれに伴う土砂崩れ等を警戒し、河岸の補修に当たる事態となった。

ウ 第一、二事件原告北野利昭、同北野早智子、同成田和陽、同成田千恵子、同政田俊雄、同政田庸子、同渡辺光子及び第二事件原告池田清助は、太井川流域に位置する大阪府南河内郡太子町葉室地区に居住し、第一、二事件原告成田和陽、同成田千恵子、同渡辺光子の住宅は、本件ゴルフ場計画地から流れ出る三本の川が合流する第一仏眼寺橋周辺の太井川沿いに、同北野利昭、同北野早智子、同政田俊雄、同政田庸子及び第二事件原告池田清助の住宅は、太井川から三〇〇メートル以内の地点にそれぞれ存在している。他方、その余の原告らは、いずれも本件ゴルフ場計画地から八〇〇メートル以上離れた住宅地に居住していて、近隣に崖や傾斜地等は存在しないし、その住宅は、本件ゴルフ場計画地から流れ出る河川のいずれからも遠く離れている。

(2) 右認定事実、とりわけ、太井川氾濫の経緯や同川からの近接性等に照らすと、第一事件原告北野利昭、同北野早智子、同成田和陽、同成田千恵子、同政田俊雄、同政田庸子及び同渡辺光子については、本件林地開発行為許可申請の許可要件適合性に関する審査に過誤があった場合に想定される土砂の流出又は崩壊、水害等の災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住していることが認められるから、本件林地開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有するものというべきであるけれども、その余の同事件原告らについては、かかる災害の想定される地域に居住しているものとは認められないから、右原告らの本件林地開発行為許可処分の取消しを求める訴えは、不適法なものとしてこれを却下する。

3 砂防法四条、同法施行規程三条、大阪府砂防指定地管理規則四条に基づく砂防指定地内行為許可処分について

(一)  砂防法には、その制定目的について明示的に定めた規定は存在しないけれども、同法によると、主務大臣の指定した土地において治水上砂防のため施設するものを砂防施設といい(一条)、主務大臣は、砂防施設を要する土地又は同法により治水上砂防のため一定の行為を禁止若しくは制限すべき土地を指定し(二条)、地方行政庁は、右砂防指定地において治水上砂防のため一定の行為を禁止若しくは制限することを得るものとされているのであって(四条)、これらの規定に照らすと、同法は、「治水上砂防」、即ち、国土の保全という巨視的な見地から広く一般的に土砂の生産を抑制し、流送土砂を扞止調節することによって災害を防止するという一般的公益の保護を目的とするものと解される。

(二)  砂防法四条に基づく砂防指定地内行為許可処分も、このような一般的公益の保護を目的として定められたものと解されるところ、同条一項は、地方行政庁は砂防指定地において治水上砂防のため一定の行為を禁止若しくは制限することを得るとし、これを受けた同法施工規程三条も、同法四条一項により禁止若しくは制限すべき行為は都道府県の規則をもって定める旨規定するにとどまり、砂防指定地において規制される行為の具体的内容はおろか、右規制を解除して許可処分を行うための要件についてさえ、何ら規定していない。また、これを受けた大阪府砂防指定地管理規則も、砂防指定地において禁止又は制限される行為の内容については規定しているものの(三条、四条)、右許可要件に関しては、何らの定めも置いていないのであって、関連法規をみても、砂防法四条に基づく砂防指定地内行為許可処分が個々人の個別的利益を保護すべきものとして位置づけられていることを窺わせる規定は存しない。

(三)  そうすると、砂防指定地内行為許可処分について定める砂防法四条が「治水上砂防」という一般的公益の保護にとどまらず、砂防指定地周辺に居住する住民個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することは到底できないから、本件砂防指定地の周辺住民にすぎない第一事件原告らは、本件砂防指定地内行為許可処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

(四) 以上によると、第一事件原告らの本件訴えのうち、本件砂防指定地内行為許可処分の取消しを求める部分は、不適法であるから、これを却下する。

4 宅地造成等規制法八条に基づく宅地造成工事許可処分について

(一)  宅地造成等規制法は、宅地造成に伴い崖崩れ又は土砂の流出を生ずるおそれが著しい市街地又は市街地となろうとする土地の区域内において、宅地造成に関する工事等について災害の防止のため必要な規制を行うことにより、国民の生命及び財産の保護を図り、もって公共の福祉に寄与することを目的として制定されたものである(一条)。同法八条に基づく宅地造成工事の許可申請は、都道府県知事に対して行われるが、都道府県知事は、右許可申請に係る宅地造成工事の計画が同法九条の規定に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず、また、右許可には、工事の施工に伴う災害を防止するため必要な条件を附することができるものとされている(八条)。そして、同法九条によると、右宅地造成工事は、政令(その政令で都道府県の規則に委任した事項に関しては、その規則を含む。)で定める技術的基準に従い、擁壁又は排水施設の設置その他宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講じられたものでなければならないものとされ、これを受けた同法施行令においては、擁壁や排水施設の構造、地盤の安全措置、崖面の安全措置等について、具体的かつ詳細な技術的基準が定められている。このように宅地造成等規制法及びこれを受けた同法施行令において、宅地造成に伴う崖崩れ又は土砂の流出を防止するための具体的かつ詳細な技術的基準が定められ、申請に係る計画が右基準に適合していることが宅地造成工事の許可要件とされていることに加え、右基準適合性に関する審査に瑕疵があった場合には崖崩れ又は土砂の流出が生じる可能性があり、一度これら災害が起こったときは、当該宅地造成地に近接する住民であればあるほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その程度はより直接的かつ重大なものとなり、とりわけ、当該宅地造成地の近くに居住する者はその生命、身体等にさえかかる直接的かつ重大な被害を受けることになるものと想定されることなどを併せ考えると、宅地造成工事許可処分について定める宅地造成等規制法八条は、単に公衆の生命、身体の安全等を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、宅地造成地周辺に居住し、宅地造成工事に伴う災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。

そうすると、申請に係る計画の基準適合性に関する審査に過誤があった場合に想定される崖崩れや土砂の流出により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する住民は、宅地造成等規制法八条に基づく宅地造成工事許可処分の取消しを求める原告適格を有するものというべきである。

(二) そこで、次に、右に述べたような観点から、第一事件原告らが、本件宅地造成工事許可処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて判断する。

前記第三の一2(二)認定の事実によると、第一事件原告北野利昭、同北野早智子、同成田和陽、同成田千恵子、同政田俊雄、同政田庸子、同渡辺光子については、本件宅地造成工事許可申請に係る計画の基準適合性に関する審査に過誤があった場合に想定される崖崩れや土砂の流出により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住していることが認められるから、本件宅地造成工事許可処分の取消しを求める原告適格を有するというべきであるけれども、その余の同事件原告らについては、かかる災害の想定される地域に居住しているものとは認められないから、右原告らの本件宅地造成工事許可処分の取消しを求める訴えは、不適法なものとしてこれを却下する。

5  都市計画法二九条に基づく開発行為許可処分について

(一) 都市計画法は、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的として制定されたものであって(一条)、都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的は都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるものとされている(二条)。そして、都市計画においては、無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図るため、都市計画区域を区分して、市街化区域及び市街化調整区域を定め、市街化区域については優先的かつ計画的に市街化を図る一方、市街化調整区域については市街化を抑制するものとし(七条)、右制度の実効性を担保し、都市計画区域内の宅地造成に一定の水準を確保するための手段として、都市計画区域における開発行為を都道府県知事(地方自治法二五二条の一九第一項の指定都市においては市長、都市計画法八七条二項)の許可にかからしめるものとしている(二九条)。このような都市計画法の目的、開発行為許可制度の趣旨等に照らすと、同法二九条に基づく開発行為許可処分は、都市の健全な発展と秩序ある整備、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動の確保という公共の利益の保護を目的とするものと解される。

しかしながら、他方において、都市計画法三三条一項七号は、「開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていること」を開発行為の許可基準とし、これを受けた同法施行令二八条や同法施行規則二三条、二七条等は、崖崩れや出水防止のための設計基準について具体的かつ詳細な規定を置いている。このように都市計画法及びこれを受けた同法施行令、同法施行細則において、崖崩れや出水等の災害を防止するための具体的かつ詳細な技術的基準が定められ、申請に係る開発行為が右基準に適合していることが開発行為の許可要件とされていることに加え、右基準適合性に関する審査に瑕疵があった場合には崖崩れや出水等の災害が生じる可能性があり、一度これら災害が起こったときは、当該開発区域に近接する住民であればあるほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その程度はより直接的かつ重大なものとなり、とりわけ、当該開発区域の近くに居住する者はその生命、身体等さえにかかる直接的かつ重大な被害を受けることになるものと想定されることなどを併せ考えると、開発行為許可処分について定める都市計画法二九条は、単に公衆の生命、身体の安全等を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、開発区域の周辺に居住し、右災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。

そうすると、申請に係る開発行為の基準適合性に関する審査に過誤があった場合に想定される崖崩れや出水により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する住民は、同法二九条に基づく開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有するものというべきである。

(二) そこで、次に、右に述べたような観点から、第二事件原告らが、本件開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて判断する。

前記第三の一2(二)認定の事実によると、第二事件原告北野利昭、同北野早智子、同成田和陽、同成田千恵子、同政田俊雄、同政田庸子、同渡辺光子及び同池田清助については、本件開発行為の基準適合性に関する審査に過誤があった場合に想定される崖崩れや出水により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住していることが認められるから、本件開発行為許可処分の取消しを求める原告適格を有するというべきであるけれども、その余の同事件原告らについては、かかる災害の想定される地域に居住しているものとは認められないから、右原告らの本件開発行為許可処分の取消しを求める訴えは、不適法なものとしてこれを却下する。

二  本件林地開発行為許可処分の適法性について

1  許可基準の運用細則に関する通達違反について

(一) 森林法一〇条の二第二項は、都道府県知事は林地開発行為許可申請が同項の各号のいずれにも該当しないと認めるときはこれを許可しなければならないものとし、同項一号は、「当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」、同項一号の二は、「当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」と規定している。このように森林法が同法一〇条の二第二項一号、一号の二の要件について抽象的な許可基準を設定するにとどめているのは、林地開発行為に伴う土砂の流出又は崩壊、水害等の災害発生の危険性を判断するに当たっては、開発行為をする森林の地形、地質、下流域の流出能力等の自然的条件や人口分布等の社会的条件を多角的、総合的に検討しなければならず、しかも、右審査においては、土木、建築、地質学等の多方面にわたる最新の科学的、専門技術的知見が必要とされることから、右の許可要件について法律であらかじめ具体的かつ詳細に定めておくことは、かえって判断の硬直化を招き適切ではないとする趣旨に出たものと解される。そうすると、森林法は、右許可要件の審査基準あるいは判断基準の具体的内容の確定については、下位の法令及び内規等で定めることを是認するものであって、これを行政庁の専門技術的裁量に委ねたものと解するのが相当である。

以上のような点を考慮すると、林地開発行為許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、被告行政庁の右専門技術的判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、林地開発行為許可処分は、現在の科学的水準に照らし、右判断の際に用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか、あるいは被告行政庁の判断過程に看過し難い過誤、欠落がある場合に限り違法となるものと解すべきである。

(二) そこで、このような観点から、本件林地開発行為許可処分の適法性について判断する。

(1) 証拠(甲一ないし三、六ないし八、九及び一〇の各一、二、一一ないし三四、八一ないし八五、八七及び八八、九三、九九ないし一〇三、検甲一ないし一二、乙一、五ないし一〇、乙A一ないし三の各一、二、四ないし六、乙B五ないし七、乙C二、検乙一、二の一ないし五、証人禾本栄治、同神山善寛、同大津允)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

ア 森林法一〇条の二に基づく林地開発行為の許可要件の審査については、「開発行為の許可基準の運用について」(昭和四九年一〇月三一日付林野企第八二号農林事務次官依命通達)及び「開発行為の許可基準の運用細則について」(昭和四九年一〇月三一日付四九林野治第二五二一号林野庁長官通達。以下「旧通達」という。)が定められていたところ、旧通達は、平成二年六月一一日付二林野治第一八六八号林野庁長官通達によって改正され(以下「新通達」という。)、平成二年六月一一日、施行された。新通達においては、①森林法一〇条の二第二項一号の許可要件について、新たに開発行為による土砂の移動量に関する具体的審査基準が定められ、右基準によると、ゴルフ場の造成に係る切土量、盛土量がそれぞれ一八ホール当たり概ね二〇〇万立方メートル以下であることとされ、また、②同項一号の二の許可要件について、新たに洪水調整池等の設置に関する技術的細則が定められ、右細則によると、開発行為をする森林の下流において当該開発行為に伴いピーク流量が増加することにより当該下流においてピーク流量を安全に流下させることができない地点が生ずる場合には、当該地点での三〇年確率で想定される雨量強度及び当該地点において安全に流下させることができるピーク流量に対応する雨量強度における開発中及び開発後のピーク流量を開発前のピーク流量以下までに調節できるものであって、流域の地形、土地利用の状況等に応じて必要な堆砂量が見込まれていること等とされたほか、③同項三号の許可要件についての審査基準が改正され、事業区域内において残置ないし造林する森林又は緑地の割合(森林率)が従前の概ね四〇パーセント以上から概ね五〇パーセント以上に、周辺部及びホール間に配置する残置森林又は造成森林が従前の幅概ね二〇メートル以上から幅概ね三〇メートル以上にそれぞれ強化された上、さらに、新たに残置森林率(残置する森林のうち一五年生以下の若齢林を除いた面積の事業区域内の森林の面積に対する割合)を概ね四〇パーセント以上とし、周辺部及びホール間において配置する残置森林を幅概ね二〇メートル以上とすることとされた。

なお、右通達改正に伴って発せられた「改正許可基準等の運用に当たっての留意事項について」(平成二年七月三日付二―二〇林野庁指導部治山課長発)によると、新通達施行日において、既に都道府県の要綱等に基づく事前協議等を概ね了しているもの(林務担当部局として事業計画の内容審査を了しており、残置森林等の割合、配置等について具体的に指導、調整等がなされている事案)であって、新通達施行日以降二年以内に林地開発行為許可の申請手続を行うものについては、従前の例により取り扱うこととし、開発行為に係る森林の面積が二〇ヘクタール以上の場合に右経過措置を適用するについては、新通達施行後六か月以内に林野庁治山課と協議調整するものとされていた。

イ 大阪府においては、「大阪府土地利用等調整協議会設置要綱」(昭和四一年一一月二九日実施)が定められ、大阪府土地利用等調整協議会が面積二〇ヘクタール以上のゴルフ場造成事業に係る調整を行うものとされているほか、同要綱四条を受けて「大規模開発検討部会設置運営要領」(昭和六一年四月一日実施)が定められ、大阪府建築部開発指導課長、同農林水産総務課長、同緑の環境整備室長、同総合計画課長及び同河川砂防課長等によって組織される大規模開発検討部会が、市街化調整区域における大規模開発計画について専門的な検討に当たるものとされている。本件ゴルフ場の造成計画については、大規模開発検討部会が昭和六三年九月から一三回にわたって検討、審議を重ね、平成二年三月一二日、右造成計画は大阪府土地利用等調整協議会が取り決めた「ゴルフ場開発に関する取扱方針」に適合するもので、関係法令に基づく許可の検討対象とするのが相当である旨の検討結果を答申し、これを受けて、大阪府土地利用等調整協議会は、同月二三日、大規模開発検討部会の右検討結果を了承した。大規模開発検討部会は、訴外会社が平成三年八月頃、本件ゴルフ場造成計画の変更を申し入れたことから、改めて右審議、調整作業を行うかどうかを検討したが、右変更後の造成計画は、開発区域の面積を従前よりも縮小する一方、残置森林、自然緑地等の割合を増加させるもので、土地の造成改変を抑制する内容となっていたため、同年九月二四日頃、再度審議、調整作業を行う必要はない旨の判断をした。

ウ 被告は、平成四年六月八日、本件林地開発行為許可申請が行われたのを受けて、森林法一〇条の二第二項所定の許可要件を審査した。その際、被告は、①変更後の本件ゴルフ場造成計画によると、開発区域の面積は約一二三万平方メートルから約一〇二万平方メートルに、コースに用いられる土地の面積は約三〇万平方メートルから約一九万平方メートルにそれぞれ縮小され、本件民有林における土地の改変面積も約四六パーセント減少しているのに対し、自然緑地の割合は約四三パーセントから49.4パーセントに、緑地全体の割合は67.2パーセントから74.7パーセントにそれぞれ増加し、本件民有林における残置森林等の割合も約二〇パーセント増加していて、変更後の造成計画は、森林保全の観点からより望ましい内容となっていると考えられること、②変更後の造成計画における開発区域は、その大半が変更前の造成計画における開発区域の範囲内に存在し、右変更に伴って新たに開発区域とされる部分はごく僅かにすぎないし、しかも、右部分は自然緑地として残されるか、あるいは良好な森林にするための補植が実施される地域であって、右地域内で現地形を改変する造成工事は施工されないものとされていること、③本件ゴルフ場造成計画に対しては、大阪府土地利用等調整協議会、大規模開発検討部会が改正通達施行日前に審議、調整作業を実施した上、「ゴルフ場開発に関する取扱方針」に適合する旨の判断を示していて、さらに右計画変更に対しても、改めて審議、調整作業を行う必要はない旨の見解を示していたことから、「改正許可基準等の運用に当たっての留意事項について」(平成二年七月三日付二―二〇林野庁指導部治山課長発)に規定された経過措置の適用要件を満たすものと判断し、林野庁治山課と協議調整した上、旧通達に従って審査を実施した。もっとも、被告は、訴外会社に対し、右計画が新通達所定の運用細則にも適合するように協議、指導をし、右審査の際には、新通達所定の運用細則との適合性についても検討した。

エ 被告は、右審査の結果、本件林地開発行為許可申請が旧通達所定の運用細則にすべて適合していたことから、平成五年三月二二日、本件林地開発行為許可処分をした。なお、本件林地開発行為許可申請は、新通達において新たに定められた森林法一〇条の二第二項一号についての審査基準(前記ア①)及び同項一号の二についての技術的細則(前記ア②)のいずれにも適合していた。また、本件林地開発行為許可申請における森林率は75.6パーセント、周辺部及びコース間に配置する残置森林又は造成森林は幅概ね三〇メートル以上、残置森林率は57.9パーセント、周辺部に配置される残置森林は幅概ね二〇メートル以上であって、本件林地開発行為許可申請は、森林法一〇条の二第二項三号についての新たな審査基準(前記ア③)にも概ね適合していた。

(2) 右認定事実によると、被告は、本件ゴルフ場造成計画については、新通達施行日前に大阪府土地利用等調整協議会及び大規模開発検討部会による事前審議、調整が完了していたところ、その後行われた右計画の変更が開発区域の面積を従前よりも縮小する一方、残置森林、自然緑地等の割合を増加させるもので、土地の造成改変を抑制する内容となっていたことから、「改正許可基準等の運用に当たっての留意事項について」(平成二年七月三日付二―二〇林野庁指導部治山課長発)に規定された経過措置の適用要件を満たすものと判断し、旧通達に従って本件林地開発行為許可申請を審査したもので、本件林地開発行為許可申請は、旧通達所定の運用細則にすべて適合していたのみならず、新通達において新たに定められた森林法一〇条の二第二項一号についての審査基準及び同項一号の二についての技術的細則にも概ね適合していたというのであるから、右各号所定の許可要件適合性に関する被告の判断に不合理な点があるということは到底できない。

(3) なお、第一事件原告らは、本件林地開発行為許可処分は新通達において定められた周辺部及びホール間に配置する残置森林又は造成森林の幅に関する審査基準を満たしていないにもかかわらずされた違法な処分である旨主張するけれども、前記(1)アで認定したとおり、右審査基準は、森林法一〇条の二第二項三号所定の許可要件に関して定められたものであるところ、同号については、周辺住民個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することができないことは、前記第三の一2(一)(4)で説示したとおりであるからそもそも同事件原告らの右違法事由の主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法をいうものにすぎず、採用することができない。

(4) また、第一事件原告らは、本件林地開発行為許可処分は変更後の本件ゴルフ場造成計画に関する事前協議を経ないでされた違法な処分である旨主張するけれども、そもそも事前協議の実施は、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分の許可要件とはされていないのであるから、同事件原告らの右主張も採用することができない。

2  大阪府土地利用等調整協議会が定めた取扱方針違反について

第一事件原告らは、本件林地開発行為許可処分は平成二年九月一日に改正された「ゴルフ場開発に関する取扱方針」に違反する違法な処分である旨主張する。

しかしながら、証拠(甲八七及び八八、乙一〇、乙A三の一、二、証人禾本栄治、同神山善寛、同大津允)及び弁論の全趣旨によると、大阪府土地利用等調整協議会は、「大阪府土地利用等調整協議会設置要綱」(昭和四一年一一月二九日実施)に基づき、土地利用に関する計画、事業の調整等を図ることを目的として設置された組織であって、一定規模以上の土地利用の事業に係る調整等を行うものとされていること、「ゴルフ場開発に関する取扱方針」は、同協議会が昭和六一年一二月一日に取り決めたゴルフ場開発に関する内部的準則であって、右取扱方針によると、大阪府におけるゴルフ場開発は、関係諸法令との調整が可能であり、かつ、ゴルフ場を建設しようとする者が被告との間で大阪府自然環境保全条例(昭和四八年三月三一日大阪府条例第二号)三一条に基づく「自然環境の保全と回復に関する協定」を締結しない限り認めないものとし、①敷地の六五パーセント以上の樹林地を設け、敷地の四〇パーセント以上の自然地を残すこと、②敷地の周辺部及びコース間に概ね二〇メートル以上の樹林帯を確保すること等を右協定の基準とし(三条)、知事は、開発計画の概要書に係る開発計画が右取扱方針に適合するか否かを大阪府土地利用等調整協議会の審議を経て決定し、その結果を市町村長及び事業者に通知するものとする(五条)等とされていたこと、右取扱方針は、平成二年九月一日に改正され、①開発面積が、二〇ヘクタール以上の場合は、敷地の六五パーセント以上の樹林帯を設け、敷地の四〇パーセント以上の自然地を残すこと、②敷地の周辺部及びコース間に概ね幅三〇メートル以上(内自然地二〇メートル以上)の樹林帯を確保すること等を前記協定の基準とする旨改められたことが認められるのであって、これらの諸点に照らすと、「ゴルフ場開発に関する取扱方針」は、大阪府土地利用等調整協議会がゴルフ場開発に関して行政指導を行う際の指導基準を定めた内部的準則にすぎず、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為の許可要件を定めたものでないことは勿論、その審査基準を定めた行政規則にも当たらないことは明らかである。

そうすると、右取扱方針は、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分の適法性を左右するものではないから、改正後の右取扱方針違反を理由とする第一事件原告らの主張は、採用することができない。

3  大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反について

第一事件原告らは、本件林地開発行為許可処分は大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価が実施されていないにもかかわらず行われた違法な処分である旨主張する。

しかしながら、そもそも環境影響評価の実施は、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分の許可要件とはされていないのであるから、環境影響評価の不実施を理由とする第一事件原告らの主張は、その前提を欠くというべきであり、到底採用することができない。

三  本件宅地造成工事許可処分の適法性について

1  安全性審査の懈怠について

第一事件原告らは、被告は本件宅地造成地の地盤や地質の状況を十分調査しないまま本件宅地造成工事許可処分をしたもので、本件宅地造成工事許可処分は、本来行われるべき安全性の審査を怠った違法な処分である旨主張する。

しかしながら、証拠(甲一ないし三、七及び八、九及び一〇の各一、二、一一ないし三二、八一及び八二、八四及び八五、乙一、二の一、二、五ないし七、乙B三の一、二、五ないし七、乙C一の一、二、二、証人禾本栄治、同大津允)及び弁論の全趣旨によると、被告は、本件宅地造成工事許可申請に当たり、訴外会社から、宅地造成等規制法八条及びこれを受けた同法施行規則四条によって許可申請書に添付すべきものとされている位置図、地形図、宅地の平面図、宅地の断面図、排水施設の平面図、崖の断面図、擁壁の断面図及び擁壁の背面図に加え、「(仮称)太子ゴルフ場造成計画に伴う地盤調査調査報告書(中間)」、「(仮称)太子ゴルフ場造成計画に伴う地盤調査調査報告書(二次)」と題する地盤調査報告書等の提出を受け、これら書面に基づき、本件宅地造成工事が宅地造成等規制法九条、同法施行令四条ないし一六条並びに大阪府宅地造成等規制法施行細則三条及び四条で定める技術的基準に適合するかどうかを審査したこと、右各地盤調査報告書は、本件ゴルフ場計画地における地質の構成や状態、地下水の状態等を把握する目的で実施された地盤調査の調査結果をまとめたもので、本件ゴルフ場計画地全域にわたる地表地盤踏査のほか、合計一五箇所、延長191.5メートルに及ぶボーリング調査、合計一三七回の標準貫入試験、七箇所における現場透水試験、二二箇所におけるスウェーデン式サウンディング試験等の結果が記載されていて、宅地造成等規制法九条、同法施行令四条ないし一六条並びに大阪府宅地造成等規制法施行細則三条及び四条所定の技術的基準の適合性を審査するために十分な内容であったこと、訴外会社から提出された右各書面によると、本件宅地造成工事には、右各法令所定の技術的基準との適合性において問題となるような点は全く存在しなかったことが認められるのであって、これら諸点に照らすと、右各法令所定の許可要件適合性に関する被告の判断に不合理な点があるということは到底できない。

2  大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反について

第一事件原告らは、本件宅地造成工事許可処分は大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価が実施されていないにもかかわらず行われた違法な処分である旨主張する。

しかしながら、そもそも環境影響評価の実施は、宅地造成等規制法八条に基づく宅地造成工事許可処分の許可要件とはされていないのであるから、環境影響評価の不実施を理由とする第一事件原告らの主張は、その前提を欠くというべきであり、到底採用することができない。

四  本件開発行為許可処分の適法性について

1  大阪府土地利用等調整協議会が定めた取扱方針違反について

第二事件原告らは、本件開発行為許可処分は平成二年九月一日に改正された「ゴルフ場開発に関する取扱方針」に違反する違法な処分である旨主張する。

しかしながら、前記第三の二2で認定説示したとおり、「ゴルフ場開発に関する取扱方針」は、大阪府土地利用等調整協議会がゴルフ場開発に関して行政指導を行う際の指導基準を定めた内部的準則にすぎないのであって、都市計画法二九条に基づく開発行為許可処分の適法性を左右するものではないから、改正後の右取扱方針違反を理由とする第二事件原告らの主張は、採用することができない。

2  大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価手続違反について

第二事件原告らは、本件開発行為許可処分は大阪府環境影響評価要綱に基づく環境影響評価が実施されていないにもかかわらず行われた違法な処分である旨主張する。

しかしながら、そもそも環境影響評価の実施は、都市計画法二九条に基づく開発行為許可処分の許可要件とはされていないのであるから、環境影響評価の不実施を理由とする第二事件原告らの主張は、その前提を欠くというべきであり、到底採用することができない。

(裁判長裁判官鳥越健治 裁判官福井章代 裁判官出口尚子)

別紙物件目録〈省略〉

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